おもいでにかわるまで
「お姉ちゃんに渡しておいてくれて良かったんだよ。」

「水樹ちゃんが泣いてると思った・・・。」

「ふられた事お姉ちゃんに聞いたの?」

水樹は泣いてはいなかったけれど何も話さなかった。でも顔は膨らんで紅潮していた。礼は、悲しいなら泣けばいいのにと思った。

「ごめん、今日は、なんか、私らしくない事を言ってしまいそう。だからもういい?」

「OK・・・。」

礼は立ち上がりお土産を持って大人しく部屋を出ていった。リビングには桜だけがいるようだ。

「桜さん、キッチン借りたいんですけど。」

そして礼は桜に手伝ってもらいながらティーポットの用意をした。それをトレーに乗せてまた水樹の部屋に戻る。

「水樹ちゃん、開けて。入るよ?」

水樹はドアを開け、礼を見てから部屋に置いてある小さなテーブルを急いで用意した。

「これね、有名なチョコレートとフレーバーティーなんだ。一緒に飲もうよ。それからね、僕で良かったら話いつでも聞くから。」

ツンとした香りのフレーバーが二人の五感に訴えかけてくる。

「話せる事何もないよ。」

「あのね、僕はね、水樹ちゃんの彼氏の事、宇野さんの事知らないじゃん。だから二人がどうであれ、僕は水樹ちゃんの話を水樹ちゃんの目線で受け止める。」

「前田君・・・。私は宇野さんと付き合っていたんじゃないよ。聖也さんって人なんだよ。ごめんね、勘違いしてたんだね。」

「え・・・。」

廊下、運動場、食堂、勇利と会うといつも嬉しそうに飛び跳ねて、でも毎回からかわれてプンスカ頭から漫画みたいなガスを出す恋する女の子を礼は知っていた。水樹は見た目は大人っぽいけれど、中身は子供で、二人のやり取りを見ている礼の方が恥ずかしくなる程だった。

「ねえ・・・前田君教えて。私の好きな人は、誰じゃないといけなかったのかな・・・。」

それから水樹は眉間にシワを寄せて口を真一文字に結び礼を見た。本当は聞いて欲しい事が沢山あって気持ちはパンパンに膨張しているのに、吐き出す場所がなくて我慢しているようだった。

「水樹ちゃん。はい、アーン。」

礼は丸いチョコを水樹の口に入れてあげた。

「こうやって口を開けてね、空気を抜いてあげないと破裂しちゃうよ。今、水樹ちゃんの前には僕しかいない。だから、自分をよく見せようとしなくていいんだよ。」

礼は話を続けた。
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