おもいでにかわるまで
「さっき言ってた、自分らしくって何かな、自分て何かな。自分は自分、自分を気にかけている自分、何かになろうとしている自分。自分は何になるの?それになったらそれが自分だよ。」

水樹は小刻みに頷いて聞いている。

「自分らしく、なんか誰にもわからないでしょ?でも最後にわかるのかもしれない。ある意味、自分らしくないって事に意義があるのかもしれない。だって、自分の好きな自分へと、創り変える事が出来るんだもの。」

うっすらだった水樹の目の涙が溜まり始める。

「水樹ちゃんが、一番好きな水樹ちゃんになれる日が来るのを、僕は楽しみに待っているからね。」

礼が言い終えると水樹は号泣した。その姿に礼も貰い泣きしそうだった。

その後水樹は、この一年で自分に起こった出来事を全てではないけれども礼に初めて話した。

水樹は間違いなく、聖也の事を好きだったのだろう。

でもそれは何の好きなのか。それがティーンを苦しめる。それに本当に突然ふられた事の衝撃は凄まじかった。

「ごめん。泣くのは違うから、泣かないって決めてたから、もう止めるから。かわいそうな自分を作って、甘えたくないんだ。」

「いいじゃん、泣いても。じゃあ問題。涙は何の為にあるのでしょうか。いつか水樹ちゃんが本当に立ち上がれない程に砕けてしまう事があれば、また教えてあげるね。」

礼は立ち上がった。

「僕もう帰るね。それから簡単に異性を部屋に入れちゃ駄目だよ。僕だからいいけど僕が僕じゃなかったら傷付いちゃうからね。」

礼は桜に挨拶をして、水樹の家を出た。水樹は別れ際、‘もう恋なんてしたくない’と泣き腫らした目ででも笑って言った。

礼は、ハイハイ、と微笑み返した。その時に、‘そのチョコの期限今日までだよ’っと言うと、‘礼って馬鹿’っと水樹に返された。

後で水樹が言っていた。この日から立花家で礼は王子と呼ばれるようになったらしい。

礼は王子として、水樹にまた何かあった時、何度でもその壊れて飛び散ったパーツを拾い上げてあげたいと思う。

それから水樹達は2年生に進級し、ずっと穏やかな時を過ごした。礼と瞬介と水樹は3人で川に行ったり海に行ったりスキーに行ったりと、よく連れ合った。

水樹は時々誰かに告白されているようだったけれど、うぶな初恋をこじらせてしまった為に、まだしばらくは恋人を作る事はなかった。

もう恋なんてしないと軽々しく口にした事を、恋の神様が聞いていておしおきをしているのかもしれない。

でも、彼らは時間を育てている。

次の桜が満開を迎える頃には、水樹は自分が勇利を好きだと言う事を、ごく当たり前に自然に話せるようになっているのだった。
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