おもいでにかわるまで
「ほら、受験の日の帰り道、俺気持ち悪くなっちゃって、うずくまってたのを介抱してくれた人だよね。王子様のようにきれいだったから、俺はっきり覚えてたんだ。」

「あ、思い出した!あの時の。君も合格したんだ。体調はもういいの?」

「お陰様で。ていうかあれからだいぶ経ってるし。」

突如現れた男子学生は、大袈裟に言う所のこの命の恩人に会えて嬉しかった様子を、感謝の思いに乗せてをありったけ伝え出した。

「あのさ、お礼ってわけでもないんだけどさ、もし時間あるなら今日何か奢らせてくれない?実は俺こっちに出てきたばっかでさ、だからさ、俺の友達第1号になって欲しいんだ。」

「困っている人を助けるのは当たり前じゃん。だからそんなのいいよ。」

「えー、遠慮しないでって実は口実でさ、俺、中部地方から出てきててね、こっちの事何も知らないし、君と友達になりたいんだ。」

「え!?遠くない?新幹線で通ってるの?」

「まさか。定期代払えないし。もしかして天然なの?こっちでは姉の家で二人暮らしだよ。」

男子学生は息つく暇なくまくし立てるように話していたが、その後、伝えたいことも伝えられて少し落ち着き、やっと気が付いたようだ。

二人の会話をじっと眺めている女の子に。

やばい・・・。

少し大人っぽい表情が彼を正気に戻すと、彼は興奮して話していた事が恥ずかしくなった。

「ねえ、まだ名前聞いてないんだけど?」

「羽柴。羽柴瞬介。」

「僕は前田礼。じゃあしゅんちゃん、今日一緒に帰ろうよ。あ、そうだ、立花さんも一緒しない?」

「へっ。」

「へっ?」

大人っぽい外見から思いもよらない抜けた声が飛び出し、礼と瞬介は完全に意表をつかれた。特に、瞬介にとってはかなりの反則技だった。
< 17 / 265 >

この作品をシェア

pagetop