おもいでにかわるまで
「ずっとこっち見てたのに聞いてなかったの?」

「あ、うん。きれいな男の子が急に現れて二人も並ぶから圧倒されちゃって、聞いてなかったんだ。ごめん。」

礼は笑った。

「何言ってんの?あのさ、今日の放課後僕と瞬ちゃんと立花さんと、一緒にお茶でもしようって。」

「あ、いや・・・。」

反対に水樹は焦った。

緊張してまともには話せないだろうし、二人の前で気を使いながらお茶を飲むと疲れてしまうと予測したのだ。

「あのっ、二人のせっかくの再会を邪魔しちゃ悪いし、今日は何か用事があったような気がする。」

「何それファジー、面白すぎ。OK、無理強いはしない。ね、瞬ちゃん?じゃまた今度ね、水樹ちゃん。」

「あ、うん。」

水樹は初めて男の子に下の名前で呼ばれてそれだけで単純にドキドキした。そして、今のこのやりとりだけで午後からのエネルギーも全部使ってしまい、ぐったりして帰りたいと思った。

その後、礼と話を終えた瞬介は自分のクラスに戻り、でも午後からスタートする授業まではまだ少し時間があった為、水樹は自販機で何か飲み物を買いに行こうと教室を出た。

「野球部に!」

「ラグビー部に!」

「水泳部に!」

廊下では丁度勧誘が激しく、中でも女子学生に対してはマネージャーの誘いばかりで、たった初日だとしてもいちいちと断るのも心苦しいものであり、更にはだんだん水樹の感覚も麻痺しておかしくなっていった。

あまりの勧誘に自分が世の中に必要とされているような錯覚が起こり、マネージャーもいいのかな、と刷り込まれていく。それに何より女子の運動部が極端に少なかったのだ。

用事を済ませてふうと一つ息を吹き出し、水樹は逃げ込むように教室に戻ろうとした。

そして、廊下に出ても余計な疲れを背負い込んだだけの水樹の、それは突然の出会いだった。

「入学おめでとう。俺はハンドボール部の宇野勇利ですっ。良かったら、俺達と一緒に全国大会目指しませんか!」

全国大会・・・?

声を掛けられてから水樹は目を合わせた。
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