おもいでにかわるまで
全国大会。その一言に水樹の胸がきゅっとなった。

そしてそう声を掛けてくれた人を瞳に映すと、息を飲む程かっこよくて、優しい笑顔の真面目そうな人だった。

「ハンドボール?全国大会?」

「そうだよ。俺達と同じ高専が集まる全国大会だよ。今年は場所どこだっけな?」

「あの、強いんですか?」

「少し前まではね。君もスポーツ好きなの?中学の時何かやってた?」

「はい。ソフトボールです。」

「超かっこいいじゃん!背も高いしうまそうだね。でもさあ、探しているのはマネージャーなんだ。ま、君なら俺達に混ざって選手でいけそうだね。」

選手で・・・。

勇利は笑っている。水樹の表情は硬い。でも運動好きの水樹にとって、例え冗談でも今日貰った言葉達の中で一番嬉しい言葉だった。それに、勇利の丁度良い冗談交じりの軽い会話は水樹をとても自然な状態にしていき緊張をほぐしていく。

そして、最後は彫刻のような無機質な顔で見つめられた。強い意志を感じて目をそらせない。水樹の胸はもっときゅっとなる。

「今日、来てくれる・・・?」

「はい・・・。」

勇利と別れてから水樹は再び緊張した。午後は入学後初めての授業で、もちろん先生の雑談も聞いているつもりではあるが、どうしても勇利の強い瞳を忘れる事が出来ない。

ハンドボール・・・ほとんど知らないな・・・でも・・・。

今日一日で沢山の男の人と話をしたが、過去記憶にないくらいに皆が気安く話し掛けてくる様は、中学までの時と違い不思議で仕方がなかった。

「水樹ちゃん帰んないの?」

「あ、前田君。うん、今日はね、クラブ見学に行こうと思うんだ。」

「へえ、そうなんだ、早いね。どこ行くの?」

「あ、今日はね、ハンドボール部行く。」

「なんでまたハンドボール?」

「えっ!?」

グイグイ迫りくる質問に戸惑う。

「えっとその、テレビとか観て・・・昼休みに先輩が・・・なんとなくなんだけど多分約束して・・・。」

「何ごにょごにょ言ってんの。本当面白いんだね水樹ちゃんて。僕もっと早くに気が付いておけば良かったな。」

褒められているのかからかわれているのかはわからないけれど、礼の柔らかい笑顔に水樹は恥ずかしくなってしまい、また、強烈に照れ臭かった。

「私の事より、前田君はどうするの?」

「僕は今はどこも入らないかなー。気楽にやりたいの。じゃ瞬ちゃんと待ち合わせしてるから。バイバイ。」

「うん、また明日。」

水樹にとって礼は優しくて話しやすく、それに昔からの顔見知りで安心だ。

そして夕方4時半、水樹は校舎を抜けグランドへ向かった。歩く度に緊張は増すばかりだ。でも水樹は行かなければいけない。

約束したから。

宇野勇利先輩と。
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