おもいでにかわるまで
「お疲れ!何、休憩?」

「ううん、今日調子悪くてもう帰るところ。」

「大丈夫なの?送ってあげたいけどさ俺まだクラブあるんだよね。」

「うん、平気。いつもありがとね勇利君。」

「とりあえずさ、今日夜電話するからまた話聞かせて。」

「うん。待ってる。ところで勇利君、もしかして待望のマネージャー?超かわいいじゃん!勇利君のクラスメイトの間宮仁美です。よろしく。」

明るくて人見知りしない仁美は、堂々と水樹にも話し掛ける。そういう仁美の気さくな所も勇利は大好きなのだ。

「あ、立花水樹です。」

反対に、水樹は二人が話している空間には入れなかった。小柄で短かめの髪の似合う仁美が勇利とお似合い過ぎて、溜息となる。

「もしかして、宇野さんの彼女さんですか?」

「え!?違うよ。確かに仲は良いけどね。だってさ、勇利君てすごく喋りやすいじゃん?優しいし。あは、そう見えた?」

「はい。私は今日会ったばかりなので、まだ宇野さんの事はよく知らないですけど、なんとなく・・・。」

そう言うと、水樹はなんだか少し悲しくてなってきて、そのまま黙ってしまった。

「水樹ちゃんもさ、何か困った事とか、間宮さんに相談しなよ!女子の先輩も必要でしょ?」

「よろしくね、水樹ちゃん。じゃあもう行くわ勇利君。」

仁美は帰り、水樹も帰る事にした。

「私もそろそろ帰りますね。」

「うん。でもちょっと待って・・・。」

「はい!」

勇利は練習着のポケットからくしゃっと折れ曲がった紙を差し出した。水樹はそれを受け取り、中身を確認する。それは、水樹の名前が平仮名で書かれた、入部届けだった。

「これ・・・。」

「酷い字でごめんね!さっき水樹ちゃんがトイレに行ってる間に急いで書いたんだ。」

「これが俺の、俺達の気持ちだから!じゃあ暗くなってきたし、危ないから気をつけて帰りなよ!お疲れ。」

そう言うと勇利は重そうなお茶のポットを持ち、グランドの方に歩き出した。

水樹は勇利に渡された入部届けにもう一度目をやる。すると、切り取り線より上側の、用紙の裏側にはメッセージが書いてあった。

“目指せ全国日本一!一緒に夢を追いかけたい!by勇利”

勇利さんっ・・・。

そう呼ぶだけで勇利が近くなる。

ラブレターを貰ったわけでもないのに、水樹の心のときめきは強くなり、それから、水樹は、この入部届けの切れ端を宝物のように毎日大切に持ち歩いた。

水樹が駐輪場に着く頃、確かに校舎は薄暗くて、時刻はもう6時だった。

勇利といる時間が好き。

だから入部する事に迷いはなかった。
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