おもいでにかわるまで
授業終了のチャイムは学生達全員の共通の合図だ。それが鳴ると部活に行く事の出来る者は当然準備を始める。

その中の一人、正木聖也もまた、珍しく早めに着替えてコートに向かった。暑くもなく寒くもない今日は、若葉の香りも絶妙に心地良くて、昨日に引き続き最高の気候だった。

今日、水樹来んのかな?昨日さ、俺のかっこいい姿をしっかり見とけって言った後、俺練習始めたでしょ。だけど気がついたら勇利と消えててさ、ほんと無駄に気合入れてシュートしたわ。勇利から連絡もねーし、ちゃんと勧誘したんだろうな。ま、勇利の魅力じゃ足りないか。やっぱこの俺が必要じゃね?

聖也らしい考えを巡らせながらコートに到着してみると、そこで聖也は異様な光景を目にした。無防備にベンチで寝ている水樹と、初めて見る男子学生の姿。

おいおいおいおいめっちゃ水樹の事見てんじゃん。

やばい、変質者に違いない、と聖也は見つからないように静かにベンチに近付き、後ろから叫んでみた。

「きゃー痴漢よー。」

すると、水樹の横にいた男子は飛び上がり慌てた様子で辺りを警戒した。その様が驚いた霊長類にしか見えず、ぶはっと聖也は吹き出した。どう見ても男子学生も1年生だという事を聖也もわかっていたのだが、からかったのだ。

「おーっす。」

「ち、痴漢てどこですか!?」

お前だよっ。

聖也はもう一度吹き出して笑うと、その声に水樹が目を覚ました。

すっげーしかめっ面。ぷっ、赤ちゃんみたいでかわいい。まじなんなのこいつら面白すぎでしょ。

慌てる男子といまいち状況を把握できずにいるしかめっ面の水樹に笑いが止まらない。

「水樹さ、どこで寝てんの?こいつが襲おうとしてたから俺が機転を利かせて守ってやったんだぜ?」

「ちょっと何言ってるんですか。そんなわけないでしょっ。適当な事言わないで下さいよ。水樹ちゃん違うからねっ?」

水樹ちゃん・・・?んにゃろーどういう関係なんだ?

名前で呼んだ事が聖也は気に入らない。

「コートに着いたら羽柴君がいるのでびっくりしました。熟睡しているみたいだったので私も一緒にボーっとしてみたらそのまま眠ってしまったみたいなんです。」

「そうなんですよ。俺起きたら水樹ちゃんが横にいて・・・しかも寝てるし・・・驚いちゃって・・・なんかごめんね。」

普通寝るか?羽柴君?知り合い?

論点が定まらない。

「同じクラス?」

「違います!」

「今自然にはもっちゃたね。」

水樹と瞬介がきゃっきゃとはしゃぎながら笑い合うと、若い二人のうぶな感じが眩しくて、実は邪魔なのは俺なのか?みたいな気持ちに聖也はさせられた。
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