おもいでにかわるまで
ほんの一月前だというのに、遠い過去の出来事のように感じしてまうのはよくある事だ。

壮絶だった試合から約1ヶ月経つ、夏休みも今日で終わろうかという平日のある日の夕方、勇利は同じクラスの間宮仁美を隣町の市民プールに呼び出していた。

今年の夏休みの間、勇利は仁美と頻繁に電話をし、時間が合えば遊びに行った。

初めの頃は仁美の彼氏の愚痴や悩みを聞いてあげるだけの関係であり、彼氏から仁美を奪うとか別れさせようとかそんな度量もそんな気も勇利にはなかったが、今ではもう、周りから見ればただの爽やかな高校生カップルにしか見えないくらいに心も体も接近させていた。

怒りっぽい仁美の彼氏が仁美を追い詰めてばかりで仁美が気の毒で、だから勇利は仁美を守りたくて元気付けたくてなるべくそばにいてあげたかった。

勇利と仁美はプールサイドに並んで座っている。

「勇利君、私ちゃんと別れたの。色々聞いてもらってありがとうね。でもさすがにちょっと落ちちゃうね、最初の頃は彼氏の事大好きだったし・・・。」

「そっか。」

「やきもちとか、束縛とか、疲れちゃったよ。」

沈黙の後、勇利は立ち上がりプールに飛び込んだ。仁美が、急にどうしたの?と言わんばかりに近寄ってきた。

「・・・間宮仁美さんっ。もし俺が今から息継ぎ無しで25メートル潜水して泳げたら・・・出来たら俺と付き合って下さい!」

「えっ!?」

突然の告白に仁美は驚き、勇利は恥ずかし過ぎて直ぐに潜ると肺に酸素をいっぱい溜め込み泳ぎ始めた。

言ってしまった。死にそうだ。でもずっと好きだったんだ。

閉園前の夕暮れ時。冷たいはずのプールの水も沸騰させてしまいそうなくらいに勇利の全身は熱かった。

息が苦しいよ。5、4、3、2、1、0メートル・・・。到達してザバッと水面から顔を出し空気を吸い、でも勇利はまた潜った。

しまった!自分で告っておいて、潜水成功しちゃったよ・・・。どうなんのこれ!?今更振られたら超かっこ悪いじゃん。もうプールサイドに仁美がいなかったらどうしよう。この後の事、考えてなかったんだってばっ。

勇利が水中でうろたえていると、ザバーンと気泡と飛び込みの音が広がった。

えっ!?

水の中、勇利の前には仁美がいた。勇利は本当に意味がわからなかったけれど、仁美は勇利に近寄り、ニコッと笑ってそして唇にキスをした。

好きだよ・・・仁美。

夏休みも今日で終わろうかという平日のある日の夕方、勇利に彼女が出来たのだった。
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