おもいでにかわるまで
「あの正木さんっ。私、こんなんでまだまだ正木さんの彼女として十分ではないと思いますが、もっともっと頑張ってちゃんとやっていこうって思っているんです。」

水樹は聖也を励まそうとしている。交際4ヶ月、聖也と水樹に決して何も生まれていないわけではなかったのだ。

「だから、これからもよろしくお願いしますね。」

焦らないと最初に決めたのに、こんな事を言わせてしまい心苦しかったが、この水樹の一言で自信が戻った聖也は積極的になれる。聖也は水樹の両手を取るとクマと時計に被せた。それからその水樹の手を覆うように、自分の手を上から重ねた。

その間はどちらも声を出せなかったが、水樹は手を振り払わずにいてくれそのまましばらく見つめ合った。これは手も握った事のない二人にとっては、意味のある大きな進歩で、聖也だって顔には出さないが胸がドキドキした。

もう遠慮はしない。水樹が2年生になったら、水樹の全てを自分のものにする。聖也の決意は固まった。

「も、もういいですか正木さん。」

水樹は照れながら手をほどき、聖也は真顔で言った。

「聖也って呼べよ。」

「えっ!?それは・・・ちょっと・・・急には・・・ですけど・・・あの、せ、聖也・・・さん・・・。」

水樹は一瞬で赤面したが、実はこの時同時に聖也も赤面していたのだった。

「水樹。好きだよ。」

「あ、ありがとうございます・・・。」

「水樹は?」

「そ、そうですね。私もそうだと思います・・・。」

ぷっ。聖也は相変わらず水樹がツボで吹き出した。水樹は声が上ずってしまい面白くて、聖也は十分満足だった。今日は特に心が温かい。

水樹、愛してる。今度は水樹の口からこの最高の台詞、俺に聞かせてくれよ。と聖也は微笑んだ。

その時。

クラブを休んでいた勇利から、恋人同士の空気を切り裂くように電話が掛かってきた。

「勇利から。おう。勇利、生きてたのか。」

水樹には勇利の声は聞こえていない。

「どうかな。それより電話くれてたのにごめん。」

「なんつう声してんだよ。お前クラブも休んでたしなんかあったのか。」

「うん・・・。明日部長に謝るよ。あのね、別に大した事ないんだけどさ、あのさ、俺、彼女と別れたから・・・。」

まじかよ・・・。聖也は驚き水樹と目を合わせた。

「おい、お前大丈夫か?一体何があった?」

「聖也君・・・。俺ね、浮気されたんだ。笑っていいよ。はは、うけるよ。こんな時、どうしたらいいのかな?」

聖也は胸が締め付けられた。

「勇利、泣いてるのか!?今どこだっ!?」

「家だよ。」

聖也が時計を確認すると時刻は6時を過ぎた所だった。
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