お嬢様は恋したい!
「帰ろっか。」

「うん。」

秀介さんが作ってくれた親子丼とお味噌汁を向かい合って食べた。

作ってくれて申し訳ないけど、味が全く分からない。

「香子。」

「ごめん。秀介さん、ごめんな…さ…い。」

「それは何に対して…」

「私、秀介さんと結婚できないっ。」

「あいつとするから?」

「一誠さんは私が秀介さんと結婚して子どももって思ってる。だから連絡先も教えてくれなかったし、秀介さんと幸せにって…」

「それじゃあ。」

「私がダメなの。一誠さん、私のために婚約解消して探してたって。それ知っちゃったら秀介さんに縋れない。お互いすれ違いでもいつかこの子は一誠さんの子だって胸を張って紹介したいから、秀介さんのプロポーズ受けられない。」

秀介さんはため息を吐いて寂しそうに笑った。

「ひとつだけ教えてくれるか。もしあそこであいつに会わなかったら、受けていた?」

秀介さんが、尋ねる。

正直な気持ちを話さなきゃ、秀介さんに失礼だ。

「うん。秀介さんとなら穏やかに過ごせると思ったから。」

「そっか。タイミング、めっちゃ悪いな。」

秀介さんは堪えるような顔で立ち上がった。

「片付けはお願いします。困ったときは、いつでも呼んでください。それではお嬢様、私はこれで失礼いたします。」

「秀介さん…」

「以前のように川田とお呼びください。」

ドアが静かに閉められ、部屋を静寂が包んだ。

「ごめんね…ごめんなさい、秀介さん。」

残された私は、いなくなった優しい秀介さんに届かない謝罪の言葉を繰り返すことしか出来なかった。


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