仮面夫婦の子作り事情~一途な御曹司は溢れる激愛を隠さない~
「私たち、夫婦になったのに、勝手に先のこと決めちゃ駄目だよね。本当にごめんなさい」
「希帆の意地悪。それなのに、ずっとずっと希帆しか好きじゃない。俺、馬鹿みたいじゃん」

風雅はなんで私のことが好きなのだろう。
高校時代、彼を熱狂的に支持する人間の中で、私だけが風雅を真っ向から叱り、真っ向から挑み続けた。彼の無意識の支配に掴まらなかった。

きっと、風雅は私に生きる力を見たのだろう。自分とは真逆の人間だから惹かれた。
真っ直ぐ好きになってくれた人間に対して、私のしようとしていたことはやはり卑怯だった。

「風雅、ごめん。風雅のこと大事に想ってる。それは信じて」

迷ったものの、私は腕を伸ばし風雅の頭を抱き寄せた。
自ら風雅を抱き締めてしまった。だけど、この気持ちを他に表現する方法がない。申し訳なさと親愛の気持ちを伝えるのに、スキンシップはすごくシンプルでわかりやすい。

すると、風雅が顔をあげ、私の顎を捉える。抗う間もなくキスをされた。
それは、私の人生で最初のキス。
二十八にもなって遅いとは思う。そのキスを風雅に奪われた。
柔く重なって、すぐに離れていく唇。
怒りも何もおこらなかった。目の前でまだふてくされた顔をしている風雅の機嫌の方が気になっていた。私は風雅を傷つけたことに、胸が痛くなるような後悔を覚えていたのだ。

「風雅、ごはんは」
「さっき、食べた」

初キス直後の会話としては微妙だ。だけど、風雅の気を引きたてようと一生懸命だった。

「シャワー浴びてきちゃいなよ。一緒に寝よう」
「まだ早いんじゃない?」
「私朝型だからもう少しで眠くなるのよ」
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