仮面夫婦の子作り事情~一途な御曹司は溢れる激愛を隠さない~
「兄はヒーローなんです。善良な顔で頂点に君臨し、裏では敵や裏切者を誅殺し続ける。兄はこれからも多くの羨望と尊敬を集め、同じくらい憎まれ恨まれ続けるでしょう」

優雅さんが私に視線を映した。微笑む表情は私への哀れみにも見えた。

「兄に忠誠を誓い、どこまでもついていく覚悟のある部下はいます。僕を含めて。ですが、希帆さん、あなたにあの男の重みを背負えますか?」
「重み……って……」
「兄の妻に相応しいのは二種類の女性です。何も知らずに気づかない、ただただ兄を愛し癒してくれるだけの女性。もしくは、兄のすべてを受け入れた上で、愛し並び立ってくれる女性。希帆さん、あなたは中途半端だ。兄を愛してもいないし、受け入れてもいない。この先もきっと変わらないでしょう」

風雅を愛していない。そんなことはないと言いたいけれど、自分の中の複雑な言葉を言語化できないでいれば、優雅さんの言葉を否定できない。

「あなたの人生です。夫やその会社のために尽くせとは言えません。でも、兄の妻には不適格です。兄を疲弊させ、枷を増やすだけ」
「……優雅さん、風雅はそんなに弱くない。私、あの男のありとあらゆる事件に昔から巻き込まれてるけど、いつだって最後は私なんか関係なく自分で解決するもの」
「ええ、兄は強い。非凡な人です。僕ら部下だって、もしかしたら兄には必要ないのかもしれないと思うことがありますよ。でも、兄はあなたを愛している。あなたの存在は不安因子です」
「私は風雅を裏切るようなことはしないわ」

私は眉を張り、真剣な表情で優雅さんを見つめた。
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