仮面夫婦の子作り事情~一途な御曹司は溢れる激愛を隠さない~
「兄から愛され子を成すだけの女なら、僕は何も言いません。あなたと兄は対等だ。あなたのため、兄は一喜一憂し振り回される。あなたは左門風雅を狂わせることができるたったひとりなんです」

私が風雅を狂わせる……。
優雅さんが言葉を切った。真っ直ぐ私を見つめる目は、兄を思う弟の目。

「希帆さん、兄を愛していないなら、兄を愛する覚悟が持てないなら、身を引いてもらえませんか。兄のために、榮西のために」

そのときだ。

『優雅』

モニタールームに風雅の声が響いた。切っていなかったスピーカーからだ。見れば、会議室でモニターカメラを見つめる風雅がいる。モニタールームの音声を彼が聞いているはずもないだろうに。

『そこにいるんだろ? 希帆も一緒?』

優雅さんがスマホを取り出し、風雅にかけた。

「います。そちらにお連れします」



会議室にはエレベーターでさらに上階へ上がる。たどりついてみれば、室内にはすでに風雅の姿しかない。先ほどの部下や風雅に掴みかかった男の姿はない。

「今日の予定を知ってる優雅なら、こういうこともあるかなあって思ってた。案の定」

風雅はにこにこ笑っている。

「希帆、ごめんね。やなところ見せちゃったねぇ」
< 90 / 104 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop