クールな御曹司は傷心令嬢を溺愛で包む~運命に抗いたかったけど、この最愛婚は想定外です~
確かに交わしたのは覚えているが、社交辞令としてが強かったし、その時はまだ芽衣子と出会っていなかった。
今となっては、到底果たせない約束だ。

「もしかしてお忘れになって? ひどいわ」

と、悪戯めいた顔で微笑んでくるが、その黒々とした目は笑っていない。

「雅己さんはお忙しい身ですもの、仕方がないわ、明美」

そこへ、祖母である会長が入ってきた。

「執行役に就かれてますますお忙しい身ですし、それに新規事業立ち上げのご準備も大詰めだとか。とても大掛かりな内容でしたね」
「ええ。そうですね」
「あの事業には私どもも強い関心がありまして、是非御社には厚くご協力させていただこうと役員一同思っているんですよ」

と、気前のいいことを言うが、そこには俺へのプレッシャーが―――孫娘との良好な関係を迫る意図が、ありありと滲んでいた。

祖母からの強烈な援護射撃の勢いに乗って、明美さんが挑むように俺との間の距離を詰めてくる。

「今夜こうしてお会いしたのもきっと縁ですわ。よろしければこの公演が終わった後でも軽くお茶でもいかがかしら?」

と、芽衣子の存在など目に入っていないかのように誘ってくる。

「せっかくですが」

俺は突き放すように明美さんと距離を取ると、そばにいた芽衣子の腰を抱いた。
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