溺愛甘雨~魅惑の御曹司は清純な令嬢を愛し満たす~
「芽衣子さんは誤解しきっています。『自分は父から愛されていない』と。だから、あなたの命じることには何でも従って来ました。あなたに愛されるために。『また、幼い頃のように、父と仲良くなりたい』という願いのためだけに」

岸議員は目を強く閉じた。震える瞼からは、涙を堪えているのが分かった。

「そうだ、その通りだ…。私は唯一の家族である芽衣子と対話をすることを忘れていた。自分勝手に決めつけて、押し付けて、妻と同じ苦しみを娘にも強いていたんだな…。私は政治家…いやそれ以前に、人として失格だ」
「どうか芽衣子さんにきちんと伝えてあげてください。あなたがどれほど芽衣子さんを大切に想ってきたかを」

言う最中から、岸議員は瞼を開け俺を真っ直ぐに見つめ返してきた。

そしてゆっくりと俺に頭を下げた。

「君には厄介をかけるが、今からでも芽衣子に会わせてくれないか」
「もちろんです。芽衣子さんもきっと喜ぶに違いありません。…俺も、嬉しいです」

顔をゆっくりと上げた岸議員に、俺は安堵に緩んだ笑みを見せた。

芽衣子の父もつられたように微笑を浮かべた。
それは俺に初めて見せてくれた、父親としての笑顔だった。





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