溺愛甘雨~魅惑の御曹司は清純な令嬢を愛し満たす~
「北村から真実はすべて聞かされました。私にお父様を責める資格はありません。むしろ謝るのは私の方です。私は苦しんでいるお父様に気付いていました。抱える哀しみの存在に気付いていました。でも、向き合うことをしなかった。お父様をずっと独りにさせていたんです」
「いや違う…!」

父はかぶりを振った。

「私が悪いのだ。苦しみに向き合おうとせず、おまえに犠牲にすることで逃げようとした。おまえに強制し、本当の気持ちや個性を根こそぎ押し潰してきた。私は悪い父親だ。詫びる権利すらない…」

声も弱く、細く、今にも泣きだしそうに顔を覆い行いを悔いている父に、私は堪らず駆け寄った。

「お父様…お父様…。私は決して恨んでなどいません。むしろ感謝しているんです。だって、お父様のおかげで、私は雅己さんに出会えたんですから…」
「……」
「雅己さんは私を必要と言ってくれました。私を唯一無二の存在と愛してくれました。そう想われたのも、お父様が私を素晴らしい女性に育ててくださったから。お父様が私を磨いてくれたからこそ、私は雅己さんに見つけ出してもらえたんです」
「芽衣子…」
「ありがとう、お父様。お父様のおかげで、私は雅己さんという『幸せ』を得ることができました」

父は初めて顔を上げて、私をじっと見つめた。

その顔は、以前と変わらず隙の無い厳格な表情を浮かべていた―――が、眉間に皺が寄り、目尻が下がり、頬が揺れ、口元がゆがみ――――まるで今にも泣き出しそうに崩れたかと思うと、安堵と感謝に満ちた笑みに変わった。

「そうか…」

一言、やっと一言呟いて、それきり。

けれどもその声は、長年の苦しみからの解放に感極まったかのように、震えていた。





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