クールな御曹司は傷心令嬢を溺愛で包む~運命に抗いたかったけど、この最愛婚は想定外です~
それまで騒々しかった外国人客が、急に声を潜めて話し始めたのだ。

それはメニューが届いた後も変わらず、彼らは終始窓の外の景観に目を止めながら、静かにお茶とお菓子を楽しんでいるのだった。

彼女は彼らに何と言ったのか。
様子からして注意したわけではなさそうだった。
ならいったいどんな話をしたのか。どんな方法で、彼らを変えてしまったのか。

「すみません」

俺は彼女が近くを通るのを見計らって話しかけた。

たいてい、俺を前にした女性は恥じらって目を合わせないか、合わせても心ここにあらずになる。
そして俺は女性のそんな様子を愉快に感じるしょうもない類の男だが、彼女はそんな自惚れ屋な俺をあっさりと裏切ってそのどちらの反応も見せず、むしろ俺を真っ直ぐに見つめた。

おどおどというわけでもなく食い入るようでもなく俺を見据えてきた彼女の目は黒々として漆細工のように美しく、俺の方が逆にその凛とした目に引き込まれてしまった。心ここにあらずの心地で。

「なんでしょう、お客様」

そして、かすかに首を傾げて桃色の唇に微笑を寄せた愛らしい仕草に、俺はドキと胸を高鳴らせた。

今思えば笑える。
この時ばかりは、俺の方が完全に見惚れていた。
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