仮面
獲物を見つけた光平の足は強制的に歩き出す。


ズルズルと疲れきった体を引きずって。


「あ、光平くん?」


相手の目の前まで来たとき不意に名前を呼ばれて光平は目を見開いた。


小柄でメガネをかけて、真面目そうな女性。


それは唯一光平に優しい言葉をかけてくれた、あの花子だったのだ。


「あ……」


光平はなにか口にしようとするが、言葉が喉の奥にひっかかって出てこない。


仮面が余計なことを口走らせないようにしているのだ。


「あ……あ……」


どうしてここに?


逃げろ。


俺に近づいちゃいけない。


すべての言葉がかき消されてしまう。


「こんなにボロボロでどうしたの? まさか、また誰かにやられた?」


花子の表情が険しくなり、光平の頬に手を伸ばす。


次の瞬間、光平はその手を掴んで後ろへひねりあげていた。


花子のか細い悲鳴が聞こえてくる。
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