追憶ソルシエール
ほろ苦くもある記憶のなか、中学生の西野くんにオススメだよって教えてもらった曲だとか、誕生日の日にこっそり学校で一緒に食べたケーキだとか。今でも思い出として残ってるの、わたしの気持ちも伝わってなかったなら、そんなこときっともっと知らないでしょ?
「もしかして今までずっとそんなふうに思ってたの? 付き合ってたときも?」
恐る恐るだった。確かめたくて、せめて当時だけでも信じていてほしくて。わたしの大切な感情をないがしろにされたくなかった。
「どっちでもいいでしょ。今はもう関係ないし、お互い好きな人いるわけだし」
「いいわけ、」
はぁー、溜まりに溜まったなんとも言えない感情を全て空気中に吐き出した。
はぐらかされて、またひとつ傷つけられる。いや、自ら傷を負いにいっているのかもしれない。
「もういいや」
嘘でも言ってほしかった。
視界の端が滲む。西野くんの横を無言で通り過ぎる。
わたしが悪かった?好きな気持ちを、上手く表現できてなかった?今さら考えたってもう遅くて無意味なのに。
今日がテスト最終日でよかった。真っ最中だったらきっと、集中して解けなかったと思う。
ばりばりと踏み潰される落ち葉の騒音に、わたしの感情も一緒にかき消してくれればよかったのに家に着いてもモヤは晴れないままだった。