追憶ソルシエール
「最近朝練終わって教室戻ると岩田もういるよな」
「なんか用事でもあるの?」
ふたりからの視線を受け、んー、と宙を仰ぐ。
「……気分転換?」
はっきりとしない答えに、2人もぽかんとした表情を見せる。
「用事もなにもないけど、その方が少し電車空いてるし快適なの」
一応、嘘ではない。2本早い電車に乗るだけで気持ち的には人も少ないし、潰されることもないから快適なことに気づいた。学校に着いてからも時間に余裕もあるからなんだか得した気分になる。一石二鳥、いや三鳥くらいある。
「あーわかる」
「朝の電車ほんと憂鬱だよな」
素直に共感してくれた2人に多少の罪悪感を抱えながらうんうん、と頷く。
気分転換を始めて早1週間。
つまり、西野くんと最後に言葉を交わした日からも1週間。
あれ以来、会うのが怖くなった。
中学生の頃までとはいかないけれど再会して以来、普通に会話できるくらいまで関係が修復して友達に戻った。過ぎたことなのに、数年前のことなのに、なぜかあのとき西野くんの放った言葉が引っかかって。勝手にやるせない気持ちになって。
なにをこんなに私が逃げる必要があるのか分からない。
分からないけど、もう今まで通りには顔も合わせたくない。
「伊吹ー! 次移動教室」
「おー、いま行く」