追憶ソルシエール
友達に呼ばれ席を立つ伊吹くんに、「あたしたちも行かないと」と自分の席に教材を取りに戻る那乃。教科書を探していれば「岩田」と降ってくる声に顔を上げた。
「これでも食べな」
差し出された手に反射的に手を伸ばす。
手のひらに乗せられたのは飴玉。
「わ、ありがと」
「今の岩田は天使っぽくないからな」
「そのあだ名好きじゃないのに」
からかうように笑って友達のもとへ向かう伊吹くんにはもうその声は聞こえていない。
どうやら今のわたしは天使らしさが欠けているらしい。目に見えてわかるほど疲労感があるみたいだ。飴をポケットの中にしまい、那乃の元へと向かった。
「……眠い」
「ね、わたしも」
昼食後の5時間目。各自校庭に出て風景画を描く美術の時間。
前回の続きのためこの前と同じ場所に横並びに座った。私は北にある校門近くの大きな木を、那乃は南にある校舎を描く。横並びとは言えど見ている向きは反対方向だ。
「あたし全然進んでない。進まない」
「ほんとだ」