追憶ソルシエール
ふふ、と微笑んでココアを口元に運ぶ。さっきよりもぬるくなった温度。それでもわたしの心は温かくなった気がした。
「俺も岩田に言いたかったんだけど」
西野くんがまたひとつ口を開いて、視線をココアから隣に移した。
伏せていた目がこちらを向き、視線がかかち合う。
「あのとき、岩田のこと嫌いになったから別れたわけじゃないよ」
「え?」
鼓膜を震わせた声を取り入れた瞬間、わずかにうわずった声が零れた。
直後、どくん、と心臓の鼓動が耳の奥まで響いて。
「今思えば、なんであんなことで別れたんだろうって思うけど、あのときはそれしか思い浮かばなかった」
落ち着いた声色には、若干の後悔が含まれているような気もする。
続く言葉を静かに待つ。
何年も前のことなのに、なんでこんなにも緊張するのだろう。
「嫌がらせされてたじゃん。岩田はずっと俺に隠してたけど」
落ち着かせようと息を吸ったとき、隣から発せられた言葉に思わず息が止まる。まるで呼吸の仕方を忘れたかのように、息を止めたまま数秒、
「知ってたの?」
誰にも聞こえないくらいの声量でぽつりと零れた。
「俺が原因ってことも分かったから、別れれば収まるかなって」
私の問いには答えず曖昧に笑ったあと、そう答える。
本当に西野くんの言う通りだった。私たちが別れたという噂が広まると、今までの嫌がらせが嘘だったかのようにぴたりと止んだ。