追憶ソルシエール
「だって世莉は会いたくないんでしょ? それならいっそのこと返さなくていいじゃん」
それだけ言うと、那乃はスニーカーから上靴に履き替える。それに続いてわたしもローファーを靴箱にしまう。
そりゃあ、できるなら会いたくない。なるべく顔も合わせたくない。
でも、
「それは、よくない……」
「うんうん、世莉はそんな子じゃないもんねぇ〜」
傘を貸してくれた相手にこんなことを思うのは失礼だってわかってる。罰当たりだってわかってる。それでも、彼の顔を見ると、嫌でも苦い思い出が頭に浮かんできてしまうから。
傘立てに入れた傘を見て、本日二度目のため息が零れた。
今日の午後が、とてつもなく憂うつだ。
「とりあえず何かあったらあたしに言って! それで、傘投げつけたらすぐ帰ってくること!」
「投げつけ……」
「健闘を祈る!」
背中をバシッと強く叩いた那乃は、それだけ言い残すと颯爽と部活へ向かった。
来ないで、と思えば思うほど時間は早く過ぎてしまうもので、あっという間に放課後だ。
今日はずっと時計を気にしてた気がする。きっと教壇に立つ先生から見れば、授業が早く終わってほしいと願う生徒みたいだったと思う。でもほんとうのわたしの気持ちは真反対で。6時間目は苦手な古典だったけれど、それでもこの授業が終わってほしくないと思っていた。
「よし、」