追憶ソルシエール
「そういえば、凌介くんたちはどうしてここに?」
「俺たち次音楽だから移動教室で」
「あぁ、そうなんだ。引き止めちゃってごめんね」
「全然、俺が勝手に手伝っただけだから」
「凌介、前に岩田さんらしき人見つけた途端俺に教科書預けてきたんだよ」
ククッと揶揄うような笑みを浮かべる香坂くんに、凌介くんは「そんなこと言うなって」と睨んでいる。
そんな様子が微笑ましくわたしもつられて笑ってしまえば「世莉ちゃんもなに笑ってんの」と巻き添いを喰らった。
「じゃあ俺先行っとくから」
「おー荷物よろしく」
「岩田さんもじゃあね」
「うん、ばいばい」
凌介くんの友達と分かれて、再び階段を上り始める。
さっきよりも断然軽くなった手元。抱えていた箱が1つになったおかげで視界も塞がれることなく、きちんと前を見渡すこともできる。
「凌介くんが来てくれてよかった」
「ほんと? 階段降りてたらフラフラしながら歩いてる子いたからびっくりした」
ふわっと春の陽射しのようにあたたかい優しい笑みをみせる。凌介くんは、春が似合う人だと思う。纏う空気は穏やかで心地いい春風のよう。凌介くんといると、不思議と自分まで穏やかな気分になれる。
きっと、わたしじゃなくても困ってる人がいたらすぐに手を差し伸べるんだと思う。だれにでも対等に接する。そういうところに惹かれたんだよなあ、と優しさが心に染みる。