追憶ソルシエール
「そういえば、これどこまで運べばいーの?」
「教室までだよ」
「おっけ」
最難関だった階段を凌介くんのおかげで無事上り終え、廊下を歩く。通り過ぎる教室から談笑するのが聞こえる。
「最近部活ばっかであんま話せてなかったから嬉しい」
頬を緩める凌介くんに、「わたしも」と自然と口角が上がる。
「たまには電話とかしてね」
「もちろん」
窓から射し込む光が、凌介くんの髪を照らす。地毛だというダークブラウンの髪がきらきらと輝いてみえる。
「ここでいいよ」
教室の前に着き、廊下にあるロッカーの上ダンボールを並べて置く。それほど長い距離だったわけでもないのに、すでに両腕がピリピリと痺れている。
「ありがとね、ほんとに助かった」
「全然、これくらいいつでも頼んで」
きっと凌介くんが手伝ってくれなければ、わたしはまだ階段を上るのに苦戦していたと思う。最悪、バランスを崩して資料を床にぶちまけていたかもしれない。
「またなんかあったら言うんだよ」
ぽん、と頭の上に乗せられた手。それは他の誰でもない、凌介くんで。
戸惑いながらも見上げて「うん」と頷けば、凌介くんは満足気に口角を上げた。
授業が始まる5分前を知らせる予鈴が鳴る。同時に、頭の上から手が離れて温もりも消える。少しだけ名残惜しい。