追憶ソルシエール

「そろそろ行くわ」

「うん、またね」



来た道を引き返す凌介くんに手を振りながら見送る。振り返ってくれたりしないかなあ、なんて思っていれば、階段に続く廊下を曲がる直前、突然立ち止まった凌介くん。まさか心を読まれたのでは……と驚いてぴたっと左右に振る手が止まった。



振り返る凌介くん。目と目が合う。


どうしたの?と首を傾げれば、凌介くんは微笑みを浮かべてこちらに手を振る。思わずふふっと笑みが零れてしまうのをなんとか隠して、手を振り返す。

これからもこういう日常の小さな幸せがずっと続いてほしい。













睡魔と戦う午後の授業を終え、教室でひとり、日誌を書き進める。誰もいなくなった教室には、シャーペンの芯を出すカチカチという音と窓の外から部活動の掛け声が聞こえる。



10月30日、金曜日。欠席者は、たしかいなかったはず。1限は化学で、2限は英語。



それからどんな内容だったかと簡単にペンを滑らせ、今日一日を振り返って感想を書き記す。




いつも何を書こうか迷う感想欄。参考に、1ページ戻って昨日担当した人のを見てみれば、"みんな真面目に授業を受けていました" というありきたりな一文のみ。その下には赤文字で "それはよかったです" と先生の返事が書いてある。


どうやら、そう悩まなくても良さそうだ。"最近肌寒くなってきたので体調に気をつけたいです" と書いて、パタンと日誌を閉じる。
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