追憶ソルシエール

その姿を視界に映した瞬間、ぴたりと硬直した。

ローファーと地面のアスファルトが接着剤でくっつけられたんじゃないかと思うほど微動だにできず、ただただ迫ってくる彼を見つめる。手の力が抜け、危うくペットボトルを落とすところだった。




「はい、これ」

その台詞と同時、差し出されたのは小さな袋。



目の前の状況に困惑してじっとそれを見つめたままでいると「ほら、」と薄く口を開く。




「タオル。返すって話してたでしょ」


そう言葉を付け足すのは昨日も一昨日も会った西野くん。



西野くんの手元に下げられた紙袋を見つめながら、ぽかん、と返事できずにいる。





「まさか忘れてたとか?」

「……その、まさかです」

「ははっ、しっかりしてよ」



申し訳なさで声が萎んでいく。すっかり頭からその記憶が抜け落ちていた。昨日、約束したばかりなのに。


タオルの入った紙袋を受けとる。ほんの少しだけ触れた指先が、ちょっぴり冷たい。




「……結構待った、よね?」

「あーどうだろ。でも別に苦じゃなかったし」

「……お、怒らないの?」


躊躇いがちに訊ねると、「はっ?」と素っ頓狂な声を上げた。


「だって、昨日約束したばっかなのに忘れてるし、呑気に日直日誌書いてるし、西野くんのことずっと待たせてるし、」
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