毒林檎令嬢と忠実なる従僕〜悪役はお断りなので冷徹な狼従者を甘やかしたら、独占欲強めに執着溺愛されました〜
 ひとつ、ふたつ、みっつと追加される書類の束を〝シュテルンの瞳〟と呼ばれる星空のように美しい双眸で追ってから、ユーフェドラはやれやれと肩を落とす仕草をした。

「レグルスは女性が苦手だというから、早めに婚約者を決めてほしかったんだけれどね。あのままじゃあ社交もままならない。
 手紙すら交わしたこともないのに、『責任を取るためにティアベル嬢を娶りたい』と言い出した時は、生真面目過ぎてどうかとも思ったけれど……今後を考えれば、良い選択だった」

「破談にはなったが」
「グレイフォードがもっと推してくれたら良かったのに。どうせ最後は、『やはり恋愛はまだ早い』とか思ったんだろう?」
「なぜ知っているんだ? お前の蝶の侵入はなかったが」
「そりゃあ、レグルスのあの顔を見たらね。固有魔法を使わなくたって、僕でもわかるよ」

 ユーフェドラの細く長い指先の上で、アクアマリンのように煌めく蝶が淡い燐光を振りまきながらひらひらと舞う。
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