あなたとはお別れしたはずでした ~なのに、いつの間にか妻と呼ばれています~
彼はそれを考えて、和花からの連絡を拒否したとしか思えない。
(連絡できないとだけでもいいから伝えて欲しかった)
やがて父は証拠不十分で不起訴となったが、無実の罪に問われた数ヶ月間の心労と体力消耗が重なったのだろう。
心臓の発作を起こし、あっけなくこの世を去った。
和花が二十歳の時だった。
病身の母と和花が残された。風評被害もあって『画廊 奥村』も立ちゆかなくなってしまった。
無理をして後処理をしていた母は倒れてしまい、和花は大学を辞めて働く道を選んだ。
その頃になってようやく樹から連絡があった。
だが、慌しい日々を過ごしていた和花は彼を無視した。
(あんなにずっと一緒にいようって言ってくれたのに、何度も、好きだって言ってくれたのに)
もうすべてが遅いのだ。樹からの連絡は、和花を苦しめるだけだった。
(どうしてあの時、連絡すらくれなかったの?)
彼の立場を理解しようと思ったが、樹への不信感は募るばかりだった。