あなたとはお別れしたはずでした ~なのに、いつの間にか妻と呼ばれています



***



10月の終わりに、和花の母は息を引き取った。
数日前から意識がなかったので、眠ったまま静かにこの世を去った。
晃大がすぐに駆けつけてくれたおかげで、滞りなく葬儀を行うことができた。

覚悟してきたとはいえ、和花は母が亡くなってから数週間の記憶が朧気だ。 
和花はアパートに母の遺骨を置いておきたかったが、父の側で眠らせてあげたらと晃大に言われて思いとどまった。

四十九日の法要の後、父の眠る墓に納骨したのは12月の寒い日だった。

立ち会ってくれたのは、晃大と大翔と佐絵子。そして大翔のアシスタントたち。
それぞれに仕事を抱えているから、読経のあとは解散することになっていた。

少ない人数だが、皆が和花を思いやってくれているのがよくわかった。

「和花、落ち着いたら手伝いに来てくれよ」
「和花さん、僕ら待ってますから」

大翔とアシスタントたちは仕事に誘ってくれる。

「ありがとう、皆さん。今日は来て下さって、本当にありがとう」

目を真っ赤にした佐絵子が和歌の手を取った。

「佐絵子」
「いつでも駆けつけるから、淋しくなったらすぐに連絡してよ」
「うん」

佐絵子は和花の手をぎゅと握りしめている。

「絶対だよ!」
「うん」

大翔たちが帰っていくと、奥村家の墓地には和花と晃大が残った。

「この前の話、ゆっくり考えて。和花ちゃん」
「晃大さん」

少し前に、母から和花のことを頼まれた時のことだろう。

「どこでもいい、広い世界を見に行こう」

ひとりぼっちになった和花には、晃大からの誘いはとても魅力的に思えた。



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