あなたとはお別れしたはずでした ~なのに、いつの間にか妻と呼ばれています



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樹は葬儀の日も納骨の日も、少し離れた場所から和花を見守っていた。
無視されたと思っていたが、大翔は樹が頼んだ通りに和花の母親が亡くなったことを知らせてくれたのだ。
決して姿を見せない約束で、葬儀などの日時も教えてくれた。

樹は隠れるようにして、悲しみにくれる和花を見つめていた。

涙を堪えている和花。大翔たちと挨拶を交わす和花。

本来なら父が亡くなった時も、今も、樹は和花のそばにいて支えているはずだった。 
だが、現実には和花がひとりですべての応対をしている。

夏に見かけた時に少し痩せたと思っていたが、喪服を着ている今はもっと華奢に見える。

(支えてやりたい。和花のそばで助けてやりたい)

そう思えば思うほど、自分の立場が恨めしかった。

あの事件の弁護団を結成する時、両親が樹を売り込むためにねじ込んだらしい。
最近になってわかったのだが、贋作騒ぎを起こした実業家がある国の要人からマネーロンダリングを頼まれた形跡があった。
両親が闇の部分をどこまで知っていたのかはわからない。
だが、それが自分と和花を隔てるきっかけになってしまったことに変わりはないのだ。

今さら両親を憎んでも仕方がない。弁護士として顧客を守るのが仕事ならなおさらだ。

四年前にはできなかったが、今ならどんな困難だって乗り越える力があるはずだ。
この暗い過去を乗り越えて、和花を取り戻したいと樹は真剣に思っていた。











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