あなたとはお別れしたはずでした ~なのに、いつの間にか妻と呼ばれています~
「あ、ありがと、フレディ」
メイクの崩れも気にせず、万里江と呼ばれた女性はゴシゴシ顔を擦っている。
「あああ~! マリエさん、酷い顔になってるよ」
「気にしないで」
目元と口元の汚れが気になってアタフタしている男性と、和花の目が合った。
「あれ?」
「あなたは」
和花は、彼がキールをご馳走してくれた英国人だと気が付いた。
男性も思い出してくれたようだ。
「十二月に、東京でお目にかかりましたよね」
「はい。あの時は、ご馳走様でした」
「まさか、こんなに早く会えるなんて、驚いたよ」
やっと落ち着いたのか、万里江が話に加わってきた。
「ダーリン、あなた彼女知ってたの?」
「去年、商談で東京に行った時、偶然会ったんだよ」
「まあ、不思議なご縁ね。彼女、オクムラさんの娘さんですって!」
「なんだって⁉」
目の前の美しい夫婦は、どうやら父を知っているらしい。思わず和花は尋ねてしまった。
「あ、あの、父とはどこでお会いになったんでしょうか?」
「ああ、ゴメンなさい。なにから話せばいいかしら」
万里江は酷く困ったような表情になった。
「マリエ、ここではダメだ。我が家にでもご招待したらどうだい?」
「そうね、和花の都合はどう?」
「今日、これからですか?」
「ええ。私たち、今日なら仕事が休めるの」
夫婦は真剣な顔つきで和花の返事を待っている。
「でも、せっかくのお休みを潰してしまったら申し訳ないです」
「いや、君と話す方が大切だよ」
紳士も、やけに和花と話したい様子だ。
「わかりました。お伺いします」