あなたとはお別れしたはずでした ~なのに、いつの間にか妻と呼ばれています


食事のあとは大人の時間だということになり、和花は二人の馴れ初めをじっくり聞かされた。

万里江は、ロンドンには絵の勉強のために留学してきたが結局フレデリックと結婚したので、今はアンティーク蒐集の趣味を生かしてアンティークショップを経営しているという。

和花は、万里江からアンティークについて話を聞いているうちにその魅力にひかれていった。

「私も、詳しく勉強してみたいです」
「それなら、うちの店でアルバイトしながら勉強すれば?」
「それはいいね。和花はきっとオクムラに審美眼を鍛えられているだろうからね」

確かに幼い頃から和花は父の指導でものの本質を見ることを厳しく教えられてきた。
それが今になって役に立ちそうだ。
ハワード氏の勧めもあって、和花は万里江の申し出を受けることにした。

ひと口に『アンティーク』と言っても、時代も異なるしサザビーで扱うような高級品から日常使いの物まで様々だ。
大きな家具もあれば手のひらに乗るような小さなアクセサリーもある。

万里江の指導の下、和花はアンティークに触れながら学んでいくことを決めた。
画商の世界でもハワード家の名前は一流らしく、後見役の晃大も和花の選択を喜んでくれた。

「すごいね、和花ちゃん。ハワード家のアンティークショップで働けるなんて」
「これも父のお陰かなって思ってます。ハワードご夫妻が、晃大さんにも一度会いたいって言ってくださってますよ」
「それはありがたいね」

晃大もハワード家との接点ができて嬉しそうだ。

「君が好きなことを自分で見つけたのが、なにより嬉しいよ」
「晃大さんにもおせわになりっぱなしですね」

「気にしなくていいんだよ。君が幸せになる手助けならいくらでもしてあげる」
「ありがとうございます」

生きる喜びを見つけた和花の表情は、久しぶりに輝いていた。


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