あなたとはお別れしたはずでした ~なのに、いつの間にか妻と呼ばれています
忘れえぬ人

すぐに和花はハワード家に通い始めた。
アンティークショップで働く前に、まず万里江の秘書を兼務しながらアンティークの勉強だ。

大ざっぱな万里江はデスクワークが苦手だったので経理の勉強していた和花を重宝してくれた。
万里江のアンティークに対する知識は想像以上に豊富で、和花はとても参考になる。

万里江と姉妹のように打ち解けると、ハワード家の子どもたちも和花に懐いてきた。
仕事の手が空いた時など、学校から帰ってきた子どもたちと遊ぶこともある。

長男のセドリックは比較的大人しい七歳の少年で本が大好き。
次男のチャールズは五歳の腕白盛りで、サッカー選手になりたいと言っている。

和花が遊び相手になる時は、庭でサッカーをしたり、ケンジントンへ散歩に行くのが約束のようになっていた。

三人で遊んだあとはおやつの時間だ。
その日はメイドのジョアンナの許可をもらって、一緒にキッチンでホットチョコレートを作ることになった。
これなら子どもたちにも簡単だろうと、材料を小鍋に入れて火にかけた。

作り慣れていたはずなのに、和花は立ち上がるミルクの匂いにいきなりむせた。

「ごめんなさい、ジョアンナ。ここお願いします」

慌てて、洗面所に駆け込んだ。
むかむかするが、胃が悪いとか食事があわなかった時の吐き気とは少し違う。
和花はこんな体調不良は経験したことがなかった。




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