あなたとはお別れしたはずでした ~なのに、いつの間にか妻と呼ばれています
デイドリーム



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画廊のオープニングパーティーから帰った樹は、『アートギャラリー M 』について調べ始めた。

ビルの所有者には、イギリスの貴族の家系だというフレデリック・ハワードと岸本晃大の名前があった。
そしてアートギャラリーの共同経営者として、ふたりに加えて万里江・ハワードと奥村和花の名前も記載されていた。

樹は和花の姓が奥村のままなのを知ってホッとしていた。
パーティーでの様子から岸本と和花が結婚したのではと秘かに心配していたのだ。
より美しくなった和花のそばで、ずっと彼女を助けていた岸本の姿に嫉妬してしまった。

(和花のそばに立つのは、もう許されないのか)

和花は樹の部屋から出たあと、ずっとロンドンにいたのだろう。
日本で探してもわからなかったはずだ。
そしてハワード家と知り合い、画廊経営の道を選んだとしか思えない。

和花が絵を描く立場ではなく、経営者になっていたのには驚いた。
知り合った頃から、絵を描いている時の和花が一番幸せそうに見えたからだ。
パーティーでの和花は、まだ若いのに堂々とした女主人ぶりを見せていた。やはり奥村氏の血を引いているのだろう。

(どうすれば和花と連絡をとれるだろうか? 佐絵子なら、なにか知っているだろうか)

あれほど探しても行方が掴めなかった和花が、自分の手の届く場所に帰ってきたのだ。
今度こそ彼女と離れたくない。どんなことをしてでも、和花を離したくない。






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