脱出ゲーム ~二人の秘密の能力~



「うっ…」



そんなうめき声と共に、一瞬にして男達が倒れた。


「なっ、何が起きたんだ!?」


飯田さんがつばを飛ばしながら慌てふためく。


それを見て、私はポケットから出したあるスプレーを、思いっきり飯田さんにかけた。



「…ゴホッ、ゴホッ!なんだこれ!辛い!…目が!」



顔を押さえて飯田さんが倒れ込む。


「忘れたのか?俺に合気道を教えてくれたのは、あんたじゃなかったっけ?」



「あなたみたいな、自分のことしか考えない、欲ばかりの人に付いていく訳が無いでしょ!?」



そう、これが私達の作戦だった。



私が飯田さんに付いていくふりをして、油断をさせる。


そしてその一瞬を狙って廉が飯田さんの仲間に合気道を、私が飯田さんにレストランのキッチンにあった唐辛子でさっき作った手作り激辛スプレーをくらわせる。



緊張しちゃったけど、上手く行って良かった!



「…ふっ」


安心する私達を前に、飯田さんが顔をおおいながら鼻で笑う。


「何がおかしいんだ?」


「お前らどうせ死んじまうんだよ。もう爆発まで30秒だ。爆発したら、助かることなんて」



飯田さんがそう言いかけた時、耳に響く大きな警報音と共にモニターの画面上に警告!という赤い文字が表示された。



「なっ、なんだ!?」



飯田さんが顔を上げて、辺りを見回す。



その顔は不気味に真っ赤に染まっていた。


『警告します。外部入力によって、時限爆弾が解除されました。警告します。外部入力によって、時限爆弾が解除されました』



モニターから機械的な声が流れる。



「良かった、間に合った…」



息を吐きながらポツリと小さくつぶやく。



瀬那から提案されたもう一つの作戦はこうだった。



瀬那が犯人グループのネットワークに忍び込んで時限爆弾の時間を解除する。



だけどすぐには出来ないから、どうにか時間を稼いでほしい。



でもまさか、本当に解除出来るなんて…。


「クソっ!お前らがやったのか!?」



「私達ではないけど…。でも、完璧すぎるセキュリティにも穴があるんですよ。全てを機械化した最先端のこの船でもね」



私は飯田さんの瞳を真っ直ぐと見つめて言葉にする。



…まぁ、この言葉、全部瀬那から聞いたものなんだけどね。



「くっ…」



四つんばいになりながらも、飯田さんが近くにある携帯電話を引き寄せようとする。



「そんな事をしても無駄だ。さぁ、教えてもらおうか?脱出口がどこにあるのか」


携帯電話を足で蹴飛ばした廉が挑発するかのように聞く。


「…」


だけど、顔を手でおおったまま、飯田さんは無言を貫いていた。


顔がさっきのスプレーでまだ痛いのか、それとも廉に顔を見られて心を読まれるのが怖いのか。



どれくらいかは分からない沈黙のあと、飯田さんが顔をおおったまま、ゆっくりと口を開いた。


「…あそこに黒い箱があるのが見えるか?」



飯田さんが指差す先には、見覚えのある50センチ位の真っ黒い箱が置いてあった。



「あれがどうしたんだ?…まさか!」



「あっ!」


その瞬間あの箱がなんなのか、分かった。



分かってしまった。


その瞬間全身がゾッとして、血の気が引いていく。


それと同時に、飯田さんが立ち上がってポケットからボタンのついたスイッチを取り出してこっちに見せてきた。



「分かるだろ?ここにある爆弾のスイッチだ!時間を解除してもこのリモコンを使えば爆発するんだ!お前らも、俺もこれでもう終わりだ!」



狂気的に笑いながらそう叫んだ飯田さんがスイッチに手を触れる。



「やめろ!」



やばい!



あの爆弾が爆発したら…!



止めようと駆け出すけど、飯田さんまでは距離がある。



どうしよう、間に合わないっ…!



瀬那、助けて…!



スローモーションのように見える飯田さんの指を見て、私は心の中でそう叫んだ。
< 47 / 50 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop