脱出ゲーム ~二人の秘密の能力~

 『はぁ!?閉じ込められた!?』



一通り今の現状を説明すると、瀬那が開口一番そう叫んだ。



瀬那の驚く声が頭に響いてキーンと強い痛みが走る。



『う、うん、そうなの。それで助けを呼んでほしいんだけど』



『助けって...。そんなことよりも本当にドア開かないの?』



『うん、カギがかかってるみたいで…』



僅かな希望で私はもう一度ドアノブに手を掛けるけど、やっぱりびくともしなかった。



『そう…。七瀬、落ち着いて聞いてね。正直に言うと、助けを呼んだとしても実際に助けが来る可能性は極めて低い』



『えええっ!なんで!?』



予想もしなかった言葉にまたパニックになりかける。



ウソでしょ?助けが来ないなんて…!



『七瀬が乗ってる船って、三崎グループ所有の豪華客船よね?』



『あ、うん、確か』



パパや、飯田さんがそんなことを言ってたっけ。



『今ネットで調べてみたら、三崎グループの豪華客船が武器を持った何者かによって乗っ取られたって情報が出回ってる』



『の、乗っ取り!?』



『そう。乗務員は全員避難させられたそうよ。つまり、この船はすでにもう犯人の手の中にある』



『うそ…』



まさかの事実に思わずそんな声が出てしまう。



緊急事態ってそういうことだったんだ。



でも、乗っ取りだなんて…。



私、どうなっちゃうの!?



『だけど、助かる方法はまだ残ってる』


『えっ、そうなの?』



『うん、それは七瀬が自力でこの船から脱出すればいい』



『…え?ちょっともっかい言ってもらってもいい?』



あまりにも唐突なことを言われたような気が…。



聞き間違いだよね、きっと。



だって、瀬那だよ?全国学力テストで一位連覇中の瀬那だよ?


こんなふざけとこと言わないよね。

もっとこう、頭脳的なことを…。


『聞こえなかったの?七瀬が自力でこの船から脱出すればいい』


『聞き間違いじゃなかった!』


瀬那の声はいたって真剣なものだった。


本気で言ってるのはわかるけど…。



『そんなことできるの?』


普通に考えてできっこない。


そもそもこの部屋から出ることさえできないんだもん。


しかも、この船を乗っ取った犯人がいるんだよ?危険すぎるでしょ…。


『大丈夫。私が協力するから。それに、このままでいるほうが危険じゃない?いずれは犯人に見つかるよ?』


『うーん、そう言われればそうだけどさぁ…。ていうか、なんか瀬那この状況を楽しんでない?』


心なしか瀬那の声がいつもよりテンション高めに聞こえるんだけど…。


『そんなことないって!それより部屋の中になにか使えそうなものがないか探しておいて。私ちょっと調べものしてるから!』


『えっ、ちょっと瀬那!?』


慌てて瀬那にもう一度呼びかけるけど、応答はなかった。


「…めっっちゃ楽しんでるやん」


大丈夫かなぁ。


そんな心配をしそうになるけど、思い踏みとどまる。


瀬那だものね。


きっと、大丈夫!


それよりも瀬那に言われた通り、なにか探さないとね。


「…えーっと、何か使えそうなものは」


そう口にしながら、私はぐるりと部屋を見渡していく。


なんかあったかなぁ。


「あっ、懐中電灯」


ふとテレビ台の上に非常用の懐中電灯が置いてあったのを思い出した。


懐中電灯は脱出ゲームでも有力なアイテム。


暗いところでも使えそうだしね。


私は大きなテレビ台に駆け寄る。


「あった、あった。…ん?なんだこれ」


ふと視線がとまる。


懐中電灯の横にはホテルとかでよく見るようなシンプルなメモ帳が置いてあった。


しかも、なんか書いてる。


「えーっと、たかぎはきんたこ。ろったくはにまいめ。…ってなにこれ?」


全部ひらがなでそう書いてある。


これって…もしかして、なんかの暗号とか!?


昨日の脱出ゲームを思い出す。


そういえば脱出ゲームには謎解きは付き物。


よく暗号を答えると部屋から脱出できるよね。


だとしたら、ここに脱出のヒントが書いてあったりしちゃう?


そう思うと、こんな状況も忘れてワクワクと胸が高鳴っていく。


「よし、暗号解読だぁ!」


興奮と気合いから私はこぶしを突き上げて思いっきりそう叫んだ。

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