水もしたたる善い神様 ~沈丁花の記憶~

二十四、

 





 

   二十四、



 
 左京に助けられた紅月は、その後、彼を抱きしめたまま気を失っていた。
 その後、紅月は何日も寝込んでいたようだ。
 起きた瞬間、両親は苦い顔をして「無事でよかった」と言ってくれたが、優月は素直に喜べるはずがなかった。村のために命を捨てろと言ったくせに、何を言っているんだろうか。そんな言葉、信じられるはずがなかった。
 優月はすぐに「左京様は!?」と問いかけたが、「亡くなったよ」と、辛い現実を突きつけられた。自分が倒れる前に起こった出来事。それは夢ではない紛れもない現実だったのだ。
 亡くなった人はすぐに火葬しなければ、成仏できないとされている。そのため、すぐに火葬されたと言われてしまった。優月の実家にある寺に骨壺がポツンと置かれていた。
 これが、左京なのだ。やっと名前を知れた。自分の愛しいと思える人が、こんなにも小さな姿になってしまった。動きもしない。名前も呼んでもらっていない。また、触れて欲しい。手を繋いで笑い合いたかった。


 「左京様。私の名前、聞こえましたか?左京様、私……………、寂しいです」


 腕の中にすっぽりと入る骨壺を抱きしめる。そこにはもうぬくもりも感じられない。
 ただただ冷たい感触。これが、死ぬという事なのだな、と夕月は感じながら、彼との別れをなかなか受け入れられずに、ただただ涙を流すだけだった。




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