砂漠の国でイケメン俺様CEOと秘密結婚⁉︎

だが、しかし……である。

日本社会で「一夫多妻」なんて、そもそも人権侵害どころか憲法違反の民法違反だ。

もし、社内で上司が部下に話を持ちかけたのが発覚すれば(その場合は「妻」ではなく「愛人」だろうけど)パワハラ案件としてコンプライアンス室へ直送である。

——「取引相手」からこんな理不尽な話を持ちかけられてると知ったら、きっと会社は守ってくれるだろうな。


だけど……

その結果、あたしはきっと「日本に戻される」に違いない。

そして、帰国すれば人事部からは「海外赴任の早々に取引相手と問題を起こした」と見做(みな)され、あたしにはもう二度と海外で仕事するチャンスが与えられなくなるだろう。

もしかしたら、東京本社にもいられなくなり、地方に飛ばされるかもしれない……

それが、日本の「会社社会」だ。


あたしの眉間にぐーっとシワが寄った。

——どうしよう……

何年も赴任するつもりでアブダビに来たにもかかわらず、こんなにも早く帰ってしまわなくてはならないかもしれなくなるだなんて……


「マミコさん」

マーリク氏に先ほどの会話を通訳し終えたムフィードさんが、いつの間にか心配そうな目であたしを見ていた。

「条件、言ってください。
あなたがいいと思う条件で……」

ムフィードさんはきっぱりと告げた。

「これから、ミスター・マーリクと『契約』しましょう」


「だったら……」

そのとき、不意に(ひらめ)いた。

< 62 / 154 >

この作品をシェア

pagetop