青い夏の、わすれもの。
「あはははっ!」


背後から笑い声が聞こえた。

私はしまった...と思いながらも、恐る恐る首を回した。


「あ...」


そこにいたのが、風くんだった。

寒いのか鼻先をトナカイのように真っ赤にし、ポケットに手を突っ込んだままこちらを見ていた。


「ごめんごめん。山本さんが暴れてたのが意外で面白くて、つい笑っちゃった」


暴れてたわけではないけど、そこを否定する余裕はまるでなかった。

その笑顔がぐさっと胸の真ん中に刺さり、生ぬるい何かが漏れて全身に通い始めた。

さっきまで寒かったのに、一気に頬が熱を帯び、耳までぽわんと温かくなった。

私はこの感覚が何か分からず、インフルエンザにかかった時みたいな気だるさと熱っぽさを感じながら木枯らしに吹かれていた。

そんな私に風くんは言った。


「山本さん、1人で掃除してたんだよね?偉いね。こんな寒いのに」


そして、私の頭に私よりも何倍もおっきな手のひらをぽんっと乗せてくれた。


「おれも手伝うよ。ほうきどこにあるの?教えて」

「あ...うん」


その首の傾げ方といい、"教えて"という甘いフレーズといい、全てが罪だった。

懲役何十年もの重罪を13歳の風くんは犯したのだ。

平凡でなんの取り柄もない私に、こんな優しい言葉や日だまりのような笑みを見せてくれる人なんて今までいなかった。

これからの人生にも現れないとばかり思っていた。

それなのに、こんな近くにいて簡単に現れてしまうなんて。

プラス、私の心まで盗んでしまうなんて。

もう罪でしかないでしょう?

なのに、それ以上に罪深きことを風くんはやってのけてしまう。


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