青い夏の、わすれもの。
「期待させるのも良くないよ。長く待たせておいてごめんなさいじゃ、むしろそっちの方が失礼だよ」

「確かに...」


うんうん、そうだ。

確かに、そうだ。

けど...。

脳裏に疼く影。

振り払おうとしても出来ない。

やはり、この存在が気になる。

風くん......。

私が好きな人。

魁くんは私を好きな人...。

うむ...。

傷つけたくないし、

傷付きたくない。

そんなこと出来ないって分かってるのに、どうして悩んでしまうんだろう。

こんな自分が心底嫌だ。


「澪?」


爽が私の顔を覗き込む。

私は思わず口に出してしまった。


「自分が好きな人と自分を好きな人、どっちを選べば幸せになれるのかな?」

「ずいぶん贅沢な悩みだね」


そう、だよね...。

自分に好きな人がいて、自分を好きな人がいて。

贅沢なんだな、私...。

人に好きになってもらえたってだけで有り難くて奇跡的なことなのに、その人じゃなくて別の人のこと考えてるなんて...。

人道に反するのかな?

私、一体どうしたらいい?


疑問符だらけになった頭を抱えてしゃがみたくなっていると、爽が言った。


「あたしはさ、自分が好きな人じゃなきゃ絶対嫌だけど」

「そっか...」


自分の気持ちに真っ直ぐに生きてる爽はやっぱりそうなるよね。

私はため息をついた。

じめっとした音楽室の湿度がさらに上がった気がした。

このじめっとした空気を一瞬でさらってくれる風がほしい。

なんて、思ったからだろうか。

私の口は無意識に彼の名を呟いていた。


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