恋の駆け引きはいつだって刺激的【完結】
私はそのまま彼に背を向けてドアに手をかけた。
すぐに帰ってくるから大丈夫、うん、大丈夫。まるで自分に言い聞かせるようにして心の中で呟く。

と、

「え、千秋さん…?」

ドアを少し開けた瞬間、ぐっと後ろから抱きしめられてドアから手を離してしまった。彼の腕が私の体をギュッと強く拘束するから身動きができない。
何故このような状況になっているのかわからない。
でも、千秋さん、と名前を呼んでも何も答えない。

千秋さんがどんな表情をしているのがわからない。
見たくても見ることが出来ない。

「あの…どうかしたんですか」
「ううん、何でもない。でも…―」

―ちゃんと帰ってくるよね

抑えのきいた声が耳朶を打ち、息をのむ。
どこか切なさの漂うその声に罪悪感が増す。
私はそっと、千秋さんの手を握った。帰ってきますよ、と言っても千秋さんは離してくれない。

どれほどそうしていただろう。

「遅れちゃうよねごめん」
「いえ…」
「いってらっしゃい」

千秋さんはそういってようやく私を解放する。
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