恋の駆け引きはいつだって刺激的【完結】
と、

「いた、桜子さん」
「…え、」

急に背後から私の名を呼ぶ男性の声が聞こえた。
振り返るとそこには見覚えのある人がいた。

…なんだ、あのイケメン

黒いコートを着て、黒のパンツを着ているのに顔が負けていないし、むしろなぜかオーラがあって道行く人が彼に一度は目を奪われていた。

あ!

「あの…時の」
「よかった。また会えて」
「…え?」

ぼさぼさ頭で今にも死にそうな顔をしている私に紳士イケメンが近づいてくる。私の目の前まで来るといきなり

「君あの店辞めたんだってね」
「…やめたというか」
「クビ、か」
「…」
「よかったよ、こうしてまた会えて」
「…はい?」
「ちょっと話がしたいんだ。ダメかな」

そう言って私の手を掴んだ。
ビクッと体を揺らした。男性に触られるのは大の苦手だから許してほしい。
そんな私の反応を見て首を傾げる朝宮さんは

「あ、わかった。じゃあこうしよう」
「…」
「君の時間一時間くれない?5万円でどうかな」
「え?!ご、5万」
「そう」

時間をくれなんてそんなセリフを現実世界で聞くなど思ってもいなくて私は顔を引きつらせながら頷いた。

「わかりました…」
「ありがとう。じゃあ、近くの店にでも」
「はい」

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