恋の駆け引きはいつだって刺激的【完結】
「返すのは次に会う時でいいわ。そして、朝宮家にふさわしい女性になる自信はあるのね?」
「…は、はい!」

吃驚している様子の千秋さんは、私とお義母さんを交互に見る。

「まだ認めてはいませんからね。でも、覚悟はあるようなのでビシビシ鍛えます」
「はいっ!」
「母さん、今どきそういうのは古いって言ってるだろ。そもそも桜子は、」
「いいの、千秋さん!10円ハゲが出来るまでなら頑張れる」
「…」

千秋さんは観念したようにため息を溢して言った。

「わかったよ。でも、俺は君の味方だよ」
「ありがとうございます」

まだまだ先は長い。朝宮家長男の妻として認めてもらえる日は来ないかもしれない。それでも、努力する環境を作ってくれたことに感謝したい。
お礼を言ってリビングを出た。

長い廊下を歩くとき、ようやく緊張が解けて思わず顔を手で覆ってしまう。

「桜子、ありがとう」
「いえ…あぁ、緊張して…もう…」
「緊張してたようには見えなかったよ。あんなふうにうちの親に向かっていく人は初めて見たよ。この辺じゃ朝宮っていう名前を出せばわかるほど有名だから」
「…いや、もう、心臓が痛いです。結果よかったのかはわかりませんけど、とりあえず絶縁しなくてよかったぁ」
「…うん。君は…最高の奥さんだよ」

そう言った彼の目が少しだけ潤んでいたのは気のせいではないはず。



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