恋の駆け引きはいつだって刺激的【完結】

「ダメ?」
もう一度甘い声で問う彼に、

「ダメ…ではないけど…別に私じゃなくても」

別に私じゃなくてもいいのではないか、そう思ってしまうのは自然なことではないだろうか。

「千秋さんなら…ほかにそういう女性がいるんじゃ…あ!そうだ。今日雪乃さんという方がうちに…その人とも深い仲なんですよね」
「…雪乃が?来たんだ。へぇ、そっか。別に深い仲じゃないよ」

優しいのに、トーンの低くなった声が鼓膜を揺らし、なんだか感情が読めない人だと思った。
至近距離で見つめ合うのが恥ずかしくて視線を逸らすと、

「桜子は、全然俺のこと好きじゃないね」
「…そんなことは!」
「俺のことで頭が一杯になってくれないかな」
「…っ」
「って、思ってる。今も」
「…さすがにそれはないかなと」
「ないんだ」

不服そうな目が私を映す。

「…」
「じゃあ、やっぱり桜子の全部がほしい」
「私の?」
「そう」
「…わかりました」

結局変な約束をしてしまって、でもOKしたからなのかようやく体が解放された。

…千秋さんに振り回されているような気がするのは気のせいだろうか。
乱れた衣服を整えながら、心の中でため息を溢した。

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