お姫様は恋してる?
水族館に入ると少し暗いせいか…暗いせいだろ。

一叶が横に張り付いて来た。

「一叶、それじゃ歩きにくいから手にしてくれ。」

俺がそう言うとおずおずと手を出して来た。

いや、手を繋ぐでこんだけ恥ずかしがるくせにキス強請るって、なんだっけ…そう小悪魔?

こいつは無自覚で色々しそうで怖い。

小さい頃、散々手を繋いで歩いていたんだから変に照れなければ、こっちも平気な顔が出来たのに意識しまくっちまう。

ドキドキ…

一叶の心臓の音がやたらよく聞こえると思ったら、俺のだった。

落ち着け、落ち着くんだ川田秀介。

隣にいるのは30も下で、赤ん坊…いや香子の腹ん中にいた時から知っている、しかも娘と呼んでいたかもしれない女の子だぞ。

たとえ俺の方にこいつを異性と意識する気持ちがあっても外に出したらまずいんだから。

香子の代わりなんて全く思ってはいないし、この15年で遅効性の毒のように俺を絡め取ったのは、一叶自身だとわかっている。

でも青少年育成条例が…

若い女の子が年上に憧れているだけかもしれないし、一叶が覚める日が来て、こんなおっさん、キモいという日が来ないとも限らない。

やはり俺は一叶にべったりしていてはいけないよな。

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