優秀な姉よりどんくさい私の方が好きだなんてありえません!
ピアノの先生が怖かったのもあるけど、弾いている時に手を叩かれたり、お姉ちゃん達と比べられて辛い思いをした―――私は出来の悪い生徒だった。

「久しぶりに弾こうか?」

壱哉さんのピアノは先生も絶賛するくらいで、後はヴァイオリンも習っていてたはず。
昔、聴かせてもらったことがある。

「いいんですか?」

「なにがいい?」

「えっと、それじゃ……。のんびりしたのを」

「わかった。じゃあ、ショパンのノクターンを」

かたんとピアノの鍵盤蓋を開けると、白い鍵盤に指を置いた。
壱哉さんが弾く音は軽やかで私の音とは全然違う。
私が牛の歩みのような重くてもたもたした音なのに軽やかな馬の足取りのような―――そんな音。
優しい音が家の中に響いて、それを聴いていると眠くなってきた。

「日奈子」

笑う声に目を開けた。

「ごっ……ごめんなさい!」

「いいよ」

くしゃくしゃと頭を撫でて、ピアノの蓋を閉めた。

「次は目が覚める曲にしようか。日奈子、リビングに行こう」

ううっ……。
これだから、私は。
壱哉さんに言われるがままに後ろを吐いて行くと、リビングのソファーを指さした。

「ほら」
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