優秀な姉よりどんくさい私の方が好きだなんてありえません!
「あんな目立つ場所に立ってるから、帰る社員、全員がおかしく思ってたんですよ」

嘘だった?―――だから、待っていても杏美ちゃんはこなかったんだ。
しかも、見世物にするためにあんな場所をわざわざ指定して。
壱哉さんが怖い顔でにらみつけるとしんっと静まり返った。
熱で頭がぼーっとなっていたけど、杏美ちゃんはその嘘に関わってなかった。
それだけはわかる。
私は杏美ちゃんを見た。
あの気の強い杏美ちゃんが泣きそうな顔をしていたので、大丈夫だよと笑ってみせた。

「そうだったんですか。私、てっきり杏美ちゃんがすっぽかしたのかと思ってました。違ってて、よかった」

「ば、ばか!」

杏美ちゃんが顔を赤くして私の前に仁王立ちして言った。

「なに騙されてんのよっ!!」

「杏美ちゃんと仲直りしたくて待ってたんだよ。仲直りしてくれる?」

手を伸ばすと、杏美ちゃんを私の手を握った。

「仕方ないわね!仲直りしてあげるわよ」

そして、取り巻きの人達に向き直ると、怒鳴り付けた。

「勝手に私の名前を使って利用していいと思っているの?しかるべき、罰は受けてもらうわよ!」

壱哉さんが私の体を抱き抱え、安島常務の横を通り過ぎる瞬間―――

「日奈子のことがいいと思うのはこういうところだ」

そう言った壱哉さんの顔は今日、このパーティーで見せた中で一番穏やかな表情をしていた。
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