優秀な姉よりどんくさい私の方が好きだなんてありえません!
そう確信した。
貴戸とは長い付き合いだからわかる。
こんなに話すのも初めてじゃないかしら?
『杏美ちゃんが幸せになれないなら友達として止めたいと思って』
そう言った日奈子の顔が浮かんだ。
あの時はカッとなって、日奈子とケンカになってしまった。
私の気持ちが貴戸に届くことはないって思っていたから―――八つ当たりしてしまったのだ。
あの優しい日奈子に。

「貴戸。あの鈍臭い親友と同じことを言うなら、その覚悟はできているんでしょうね?」

「もちろんです」

「そう、それなら貴戸。私と結婚しなさい」

「喜んで」

―――私は貴戸と結婚した。
それを知っているのは私達と祖父母だけ。
近所の教会で祖父母と私達だけの本当の結婚式をして、駆け落ちをした。
唯一の気がかりは日奈子とお兄様のことだけだったけど。
『日奈子、ごめんね』
駆け落ちをしたあの日、私が日奈子に言える精一杯の言葉だった。
尾鷹のことを全て押し付けて、姿を消した私をさすがに日奈子は怒っただろうし、恨む権利だってあるわ―――
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