優秀な姉よりどんくさい私の方が好きだなんてありえません!
『そうだ。スキャンダルを捏造するつもりらしい。場所は尾鷹御用達のホテルだ。ホテルディナーの用意をして向かえ』

そこまで言うと壱哉さんは電話を一方的に切った。
なんてこと。
スキャンダルになれば、間違いなく日奈子さんは尾鷹や周囲の関係者から白い目で見られる。
壱哉さんがいながら、他の男と浮気していたなんて思われるのは痛手だ。
時計を見るとまだ17時。
―――間に合う。
これは罠であることは間違いない。
日奈子さんと渚生をホテルで会わせて、その写真を一枚撮るだけいい。
スキャンダルにするつもりだったのだ―――水和子さんは。
けれど、そうはさせない。
日奈子さんは壱哉さんの奥様に。そして、尾鷹の社長夫人になられる方なのだから。

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

「はー……、今園さん、綺麗ですね」

日奈子さんは緊張感ゼロでそんな感想を述べた。
ホテルディナーの服装で現れ、写真に撮られたのは私と渚生だった。
間に合ったと言えるだろう。

「《《今園》》さんは囮になってくれたんだよ。どこにカメラマンが潜んでいるか、わからなかったからね」

なにが『今園さん』―――不用心にもほどがある。
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